〇蔵廻り (くらまわり)
43巻に登場した智吉さんの職業。
蔵(=質蔵)を廻り、質流れした古着や古道具を売買して歩く商人。
侍烏帽子(?)、小袖に括り袴で、質流れ品の入った大袋を肩から掛ける姿は、七十一番職人歌合の絵姿に描かれているもの。96頁の蔵廻りが右手に持っている刀は商い用である。(その為、左腰に差していない)
45頁で智吉さんの言っている「おつかい物~」は、画中詩(姿絵と共に書かれている職人同士の会話や口上)に書かれている言葉で、「お買い得品ですよ」という意味。
〇七十一番職人歌合 (しちじゅういちばんしょくにんうたあわせ)
室町時代に成立したとされる、職人を題材とした歌合。
71番、140職種の職人姿絵と画中詞、月と恋を題材とした左右284首の和歌と、判詞が収められている。
*歌合 : 左右の陣に分かれた歌人が、決められた歌題で詠んだ歌を出し、その優劣を競う遊びのこと。1番ごとに詠んだ歌の優劣を決め、総合で右方(うほう)・左方(さほう)どちらが優れた歌を多く出したかを競う。平安時代初期から、貴族の間で流行した。
*判詞(はんじ) : 左右の歌の優劣を判定することば。持(引き分け)とする場合もある。
〇七十一番職人歌合 四十一番
左 : (すあひ) 御ようやさぶらふ
右 : 蔵まはり 御つかひ物 御つかひ物
<月>
月の着る 雲のころもを うりものや さぶらふといふ 人もかはめや
蔵まはり たゞいたづらに くるゝ戸の あけぬ夜ふかき 月をみるかな
左右ともにさせる難なし 持と為すべし
<恋>
思ふ事 ひとにつたふる みちならで およぶやあると いふはよしなし
こひ衣 そでをかへばや くらまはり たえずなみだの ながれものとて
左は よその人の詠歌ならば 尤もさもときこゆ 作者の身にて歌の意たがふべし
右 袖をかへばや ながれ物 さもときこゆれど これもそでをかへばやといふ
いかゞ 袖をかへよ など詠むべきにや とり合ひて持と為す